歌詞に共感が集まり同世代を中心に人気を呼んでいる19歳のシンガーソングライター家入レオが2ndアルバム『a boy』をリリースする。1stアルバム『LEO』で行き場の無い葛藤、嘘偽りの無い想いを綴った彼女は、自分の弱さをさらけ出した楽曲が果たしてリスナーに受け止めて貰えるのかと不安を感じていたという。しかし、その心配は稀有に終わる。リリース後に開催されたライブツアーは、彼女の楽曲に魅せられた数多の人たちが会場を埋め尽くした。自分の楽曲を受け止めてくれる人がいる。自分の歌に共感し、笑顔になったり涙を流してくれる人たちを目の当たりにし、家入レオは生まれて初めて“この風景を守りたい”と思った。そして彼女は、大切なその風景を守るために大人になろうと決意をする。その想いから完成したという2ndアルバム『a boy』について、家入レオにインタビュー。アルバム制作のお話、収録曲に込められた想いはもとより、自身の作詞方法まで19歳の“今”を熱く語ってもらった。
大切なモノを守るために大人になろうと思った
──2ndアルバム『a boy』は、高校を卒業し社会人となって最初のアルバム、そして10代最後の制作になるかもしれないアルバムですが、どのような作品に仕上がりましたか?
自分の人生の中で本当に意味のある1枚になったと思っています。1stアルバム『LEO』では、大人が本当に大っ嫌いだった自分の、いろんな葛藤や叫びを歌詞に綴りました。良い意見もいただければその逆もありましたけど、活字であればそれを自分が見るか見ないかを選べるじゃないですか。ライブではそうはいかないんですよね。最後の曲を歌うまではステージを降りられない。だから、自分の弱さをさらけ出す楽曲が受け止めて貰えるかなって、実は1st、2ndツアーが少し怖かったんです。でも、自分の弱さをさらけ出したときに、ちゃんと受け止めてくださる方たちがステージの向こう側に沢山いてくれて。涙してくださったり、笑顔になってくださったりしている風景を見た時に、おこがましいんですけど“私、この風景を守っていきたいなぁ”って生まれて初めて思ったんです。
小さい頃いろいろあって、ここに居たい、この場所で生きていきたいと思っても、結局は大人が選んだ環境で生きていくしかなくて。でも、19歳となった今は“守りたい!”と言えば自分で守ることが出来る、そのためには大人になることなんだなって思ったんです。悲しいけど子供のままだと大切なモノって守れないことのほうが多い。大切なモノを守るために大人になろうと思った、だからこそ作れたアルバムだと思います。
──10代最後のアルバムという意識はありました?
自然に歳は重ねていくものだと思いますし、10代最後というのはそんなに意識しなかったかなぁ。19歳は今の私にしか感じられないし、二十歳になったら二十歳の自分がいると思うので、“いつまでも10代で居たいなぁ”というような、惜しいという気持ちは無かったです。
──『a boy』というタイトルは、どのように決められたのですか?
大人になろうと思った期間のことを何て表現しようと考えた時に、男の子の声変わりとすごくリンクしたんです。声変わりの時を選べない中で生きている男の子の横顔は、凛々しさ、切なさ、憂いがあったりする気がして。いつでも声変わりを受け入れますよという横顔と、大人になろうと思っている自分の気持ちがリンクして、それで『a boy』というタイトルになったんです。スゴク気に入ってますね。
──タイトルを決めたのは表題曲「a boy」の完成後ですか?
楽曲とアルバムタイトルは同時にみたいな感じですね。大人になろうと決意した時に、初めて過去の自分を客観的に見られるようになりました。前までは欲しいモノが与えられない時は、自分の努力が足りないんじゃなくて、周りがイケナイんだと思ってたんです。今思うとスゴク子供でしたね。それで、欲しいものが貰えない時に、見放されるのも嫌だから自分のことを傷付けてみたり壊したりしてました。でも、それじゃイケナイなぁと。
タイトルナンバーの「a boy」は、過去の自分がかけて欲しかった言葉や寄り添って欲しかった痛み、自分と同じようにもがいている人たちに、“そんなに自分を傷付けなくても大丈夫だよ”と言えたら良いなと思って作りました。
──“曖昧な未来はいらない”“曖昧な想いはいらない”という歌詞に強い想いが込められているように感じました。
“寂しいんだ”“辛いんだ”と問いかけた時に、大人は理屈っぽくなったり説教臭くなったりして、長々いろんな事を言ってくるんですよね。本当はただ1回抱きしめて欲しかったり、ただ一言“見てるからね”とか“逃げないからね”と言ってくれれば、それだけで伝わるのに。多くを与えようとしてくれているその気持ちは分かるのですが、本当に欲しいことをしてくれていないように思うんです。だからこそ、大人になろうって決意した私が、そういう言葉を伝えて行けたらいいなと思って、シンプルに率直に書きましたね。
──大人になろうと想い、そして『a boy』というタイトルが決まってからアルバム制作を進められたのですか?
今回は、1stアルバム『LEO』、1stツアー以降で出来た曲でアルバム制作がスタートしました。
13歳の頃から、私は今にも叫びたい想いを元に日々楽曲制作をしていて、『a boy』の収録曲以外にも完成している楽曲もあります。ただ、19歳でリリースするならと自分が曲のラインアップを選んでいく中で、こういう風な楽曲もあったほうが良いかなと考えて、新たに曲を作ることはありましたね。
1曲1曲意味のあるラインアップ
──1曲目の「Lay it down」から静かな優しい始まりですよね。
ワルツの曲を1曲目に持ってくることはなかなか無いかなぁと思いましたし、償いを込めて1曲目に持ってきました。
──償い?
音楽の道を選んだ時に東京に行きたくて、大切な人をどうしても裏切るカタチになってしまって。大人になろうと思った時に、その人たちに初めて"ごめんね"が言える気がしたんです。最初にこの曲を持ってくることで、今でも私はその気持ちを忘れて無いですよという想い、その誠意が伝わるんじゃないかなと思って作りました。
──一方で、昨年のZepp DiverCityでのライブ本編と同じく「君に届け」で終わるところが、ライブの構成を意識しているような印象も受けましたが、いかがですか?
1曲1曲意味があってこのラインアップにしています。1曲目は償いを込めて「Lay it down」、その想いを伝えたい人たちに“今東京で私は大切な人たちに支えて貰っているよ”という意味を込めて「太陽の女神」を2曲目に。そして3曲目に“今はかつての自分が子供だったと思えるし、その自分を客観的に見られるようになったよ”という想いで「a boy」。ライブを意識して作った曲もありますし、1曲ずつ考えてセレクトしているので、確かにライブ感は意識しているのかもしれないです。
──アルバム制作にあたって、ご自身が特に意識したことはありますか?
“大人になる”と言うと言葉の響きとしては美しく感じられたりしますが、私は良い事も逆にそうじゃない事も受け入れていくことだと思うんです。子供だから今までは知らずにいられた情報も、これからは知っていかなくてはいけないと思いますし。となると綺麗な曲ばかりを詰めるのではなく、「Free」や「Kiss Me」のように私的に少しヘヴィーな楽曲も収録したいなと。この2曲、実はアルバムに入れるのを待って欲しいと言われたんです。それほどぶっ飛んだ歌詞では無いのですが、スタッフの方々の中には“この曲はまだ早いんじゃないかな”と言う意見もあって。でも、この2曲があることによって他の収録曲の説得力が増すと思い、そこは頑張って議論をして収録することになりました。
メロディーが言葉を選ぶ
──確かに10曲目の「Kiss Me」は、これまで発表されている楽曲の中でも異質な感じがしました。
二十歳を目の前にした時に、こういう楽曲も、もっと歌っていってイイんじゃないかなぁという気持ちがありましたし、私の中では1stアルバムの収録曲「Fake Love」の延長線上で“一人にしないで”という気持ちから作っていった楽曲ではあります。
──「Fake Love」は心の葛藤を描いていて、「Kiss Me」はもっと直接的にフィジカルな行動を求める積極的な主人公ですよね。
挑発的なことを言う一方で、“好きだと泣けたらいいのに”と言う女性の矛盾した恋心を歌にしたんです。女性が絶対っていう恋心を抱いた時、実は今にも崩れ落ちそうなんですよという気持ちを分かって貰いたくて。これをバラードに乗せられないのが私らしいなというか(笑)、ロック調のアップテンポでないと歌えない自分らしさにちょっと笑えたんですけど。
私は普段、曲を先に作り、その曲に歌詞を書いています。「Kiss Me」はギターのストロークの時に一番ハマリが良かった言葉を採用しました。メロディが言葉を選ぶと私は思っているので。
──6曲目の「Time after Time」の切ないメロディーとサビのフレーズが、とても印象に残りました。悩んでいる想いを素直に綴られていますよね。
本当にそうで、この曲を歌うとスゴク辛くなる部分があります。終電に近い時間で帰っていた時期があって、そういう時間って少しセンチメンタルになるんですよ。上京してからの自分をぼんやり振り返ってた時に、最初は周りに信じられる大人もいないし、自分だけを信じて生きていかなきゃいけない世界だと思っていたから、“これがしたい”、“こういう風に表現したい”ということをスゴク言っていました。でも、いつの間にか私は欲しがってばかりになってたなぁと思ったんです。チャンスも十分に与えて貰って、そろそろ握っていた拳をちゃんと広げて、受け止める側に回っても良いんじゃないかなと「Time after Time」を作りました。欲しがってばかりで与えられているものが私には何も無いなと思って、そこからちょっとでも変わっていきたいという想いを歌にしています。
いつか胸を張って「Time after Time」を歌えるような人になって行きたいです。
──家入さんの曲に励まされているリスナーは沢山いると思うのですが、まだ胸を張って歌えないですか?
まだ胸を張って歌えないですね。まだまだ与えられるモノは何も無いです。
自分の信じた良いモノを届けて行きたい
──先程おっしゃっていた1st、2ndツアーから生まれた曲というのは?
12曲目の「希望の地球(ほし)」です。
1st、2ndツアー以前は、歌詞を作る時に“使い古されてるね”、“ありきたりだね”と言われるのがスゴク嫌で、難しい言葉で綴ろうとしていた時期がありました。でも、ツアーで歌った時にメロディーの力をもっと信じようと思って。ありきりな言葉だったとしても、私がそれを本当に伝えたいんだったらメロディーに乗って真っ直ぐ届くハズだって思ったんです。だから、「希望の地球(ほし)」では、小さい子でも解るように“希望があるあるある”“未来があるあるある”とか、ちょっと言葉遊びをした感じにしています。
──「希望の地球(ほし)」が生まれたこともそうですが、“大人になろうと思った”キッカケになった1st、2ndツアーを経験して、いかがでしたか?
音楽の価値観がスゴク変わりました。あらためて自分の信じたモノを届けて行こうって思いましたね。楽曲に対しても、前までは自分が100%作っていなければ嫌だという想いがあったんです。でもそうではなくて、自分が信じた良いモノを皆さんに届けて行きたいなと思うようになりました。やっぱり自分が作った楽曲は可愛いから手直しが入ったりすると嫌なのですが、客観的になって後で聴くと直したほうが良いなぁと思うこともありますし、プロデューサーの西尾先生が作った曲に自分の想いを歌詞に書いてそう思いましたね。自分が作ったということだけにしがみ付いているより、今は作った曲を自分が納得のいく範囲でより良くして貰い、発信していくことが大事かなと思います。
──音楽に対する考え方に柔軟性が出てきたと。以前より丸くなったんですか(笑)。
いやぁー多分、周りのスタッフさんは大変だと思いますよ(笑)。嫌な事は嫌ってハッキリ言いますからね(笑)。
──2ndアルバム『a boy』を通して、リスナーにどんな想いを伝えたいですか?もしくは、どんなところに注目して聴いてもらいたいですか?
嘘偽りの無い想いを真っ直ぐ綴っていますし、いろんな表情の私が収録されているので、全部受け取ってもらえたら嬉しいです。
──2ndアルバム『a boy』のお話しをお聞きしてきましたが、家入さんは常に前を向いてますよね。以前、弱さで繋がりたくないともおっしゃっていましたし。
本当そうなんですよね。“悲しいよね”“苦しいよね”と言って手を繋いで沈んでいくことは簡単で、そっちのほうに人間は流れやすいと思うのですが、私はやっぱり音楽で救われたから、そういうことをしたくないんです。
──でも、人間は弱い気持ちに流れがちだと思うんです。家入さんのその強さは、どこから来るんでしょうか。
自分では強いと思っていないですね。弱いから今のうちに解決しようと思うのかなぁ。例えば、最初は小さかった傷でも、放っておいて時間を置くほどドンドン大きくなっていくと思うんです。だから、本当に相手のことを想うのなら、私は今解決するのが一番痛みが少ないと思うんですよ。“辛いよね”と言っているうちに痛みがドンドン大きくなっていく気がして。私には大きくなった痛みと向き合う強さが無いと思うんです。だから、傷や痛みが小さいうちに向き合いたいという気持ちが強いですね。
最初に歌詞に描く人物設定を考える
──作詞についてお聞きします。家入さんの歌詞は単に自分の心情を綴るのではなく、例えば『a boy』の収録曲でいうと「太陽の女神」や「チョコレート(アルバム ver.)」のように、ご自身の記憶や経験からフィクション、ストーリーを描けるアーティストという印象を持っていたのですが、作詞にあたって特に意識されていることなどありますか?
私が本格的に歌詞を書き始めたのは13歳でした。その時から歌詞に描く人物の設定を最初に考えるようにしています。どういう過去があって、どんな痛みを抱えていて、どんな色が好きで、どんな場所でということまで全部書き出してから作っています。ある意味、その子の人生に寄り添いながら作っている部分があるから、ストーリーと言えばストーリーなのかもしれませんね。
──例えば本を読んだり映画を観たり、常日頃に心がけていることってありますか?
出ていくモノが多いのでインプットをちゃんとすること、映画や小説に触発されて作っていくこともあります。私は曲の中で嘘をつきたくないんです。もちろん実体験で全部作れるわけではないので映画や小説も見るのですが、そこで自分自身の中に生まれた感情というのは真実だと思うんですね。でも、生まれた感情をそのまま表に出した時に“嫌われちゃうかな”とか考えてエッセンスを加えることが嫌いなんです。映画や小説に触れて自分自身に生まれた感情そのままを伝えていきたい、そこに対して嘘はつかないという想いがあります。
──ちなみに好きな作家は?
太宰治がスゴク好きで。嶽本野ばらさんも好きです。
今を生きずに未来は語れない
──2ndアルバム『a boy』のリリース後は、3月1日から3rdワンマンツアーが始まります。最終公演ではワンマンとしてはご自身最大となるNHKホール公演も控えています。どんなツアーになりそうですか?
ステージ上は自由な空間なので暴れて行きたいと思います。ギターも弾きますし、新しい表現にも挑戦するので、スゴク楽しんで貰えるんじゃないかなって思ってます。会場の皆さんが何で「サブリナ」で拳を上げてくれるのかなって考えた時に、日ごろ見せられない痛みとか切なさがあるからだと思うんです。だから私のライブでは、楽しいって盛り上がるだけではなく、そういう陰の部分もちゃんと見せられるような、熱いライブにしていきたいと思っています。
──新しい表現は、まだ内緒ですか?
はい、まだ内緒です(笑)。
──最後に、今年12月13日の誕生日で二十歳を迎えますが、今後ご自身がこうなりたいというアーティスト像はありますか?
特に無いですね。今を生きずに未来は語れないので。今、瞬間瞬間をちゃんと自分のモノにしていって、家入レオらしい音楽を続けていくことなのかなと思います。